マット・ブラウン氏の午後 「僕の顔をお食べ」 その青年は突然自分の顔をモッサリと剥ぎ取り、俺の前に差し出した。年のころなら20代半ばだろうか。正義感に満ちたすがすがしい顔をした、茶色いマントに赤い服のその青年は、ひもじい俺のために自らの身を差し出したのだ。 「い、いや・・・あの・・・」 「どうしたの?さあ、えんりょしないで」 ワイルド&デンジャラスで通っている俺だが、目の前でモッサリと剥ぎ取られた顔を食べるにはあまりにも根性がいる。「自分で狩った獲物を自分で裁いて自分で喰らう」マタギである俺にとっちゃあ至極当然の事である。が、この青年は自ら顔を剥ぎ取り、差し出したのだ。例えば牛。牛が自ら「この辺がヘレ肉です」などといいながら自らの身を剥ぎ取って差し出したとしても、それはあんまり気分のいいものではない。むしろ、きしょい(気持ち悪い)。 「ねえ、僕の顔・・・食べてくれないの?」 青年の顔が曇り始めた。きっと俺が顔を食べないせいだろう。しかしさっきも言った様に、そんなの、きしょい。かと言ってこの青年の親切な気持ちも踏みにじりたくない。一体どうすれば・・・と、その時、空から黄色い男と白くて四角い顔の男が現れた。 「どうしたんだ。こまりごとか?」 「僕の顔を食べてくれないんだ」 「きっと、甘いものが苦手なんですよ」 「いや・・・」 「でも、食べないとこの人死んじゃうよ」 「そうですね、何とかしてあげないと」 「ここは俺にまかせなよ。俺が作る料理は、嫌いなヤツはいないはずだぜ」 俺の意見も聞かずにこの黄色い男は何やら作ることにしたらしい。そして俺の目の前で、また衝撃的な映像が繰り広げられた。得意げな顔の黄色い男は器になるものを探し出すと、その中にゲロゲロと口から黄色い液体を吐き出しこう言った。 「さあ、遠慮しないで食えよ。俺様特製のカレーだぜ」 ますます気分が悪くなった。その上こいつの喋り方が何だか気に食わない。大体こいつ等は何者なんだ?敵なのか?味方なのか?はっきり言って、空腹なんかどうでも良くなってきた。というかそもそも俺は、死に至るほどの空腹なんかではない!もう、爆発寸前だ!!!と、その時、白くて四角い顔の男から信じられない言葉が・・・! 「あ、これ給食用のパンの余りですけど、よかったら」 「それ早よくれよ!!!」 おわり (2002.6.29) |