轟想

轟想

 今日もいつもと変わらない退屈な仕事を終えると、俺は愛車のハーレーダビッドソン・ファットボーイに跨り、通いなれた通勤路を重厚な排気音を轟かせながら5km先の我が家へと走らせる。冬の夜の静寂を掻き消す排気音は、冷え切った人間関係で凍りついた俺の心を優しく溶かしてくれる。この瞬間があるから俺は、会社員と言うものが続けられる。そう、いつもバイクに跨るこの瞬間が、俺にとっての大切な時間なのだ。

 静かな夜。何時にもまして車の通りの少ない中央大通り。それはまるで、真夜中のハイウェイのように薄気味悪く、街灯すらも幾分か暗く思えてしまう。・・・・・・何かおかしい?俺はある異変に気が付いた。いくら冬の夜が暗いと言ってもまだ18時をまわったところだ。こんなに暗いはずはない。それにこの静か過ぎる静寂。人通りのない交差点。この時間帯ならば交差点は、仕事帰りの人ごみでごった返すはず。それが今日は、人っ子一人・・・・・・いや猫一匹いやしない。冷たく乾いた風が、頬をすり抜ける。そして俺はウィンカーの左の合図を出すと、交差点を飛び出しに注意しながら程よい速度で左折し、ルートを内環状線へと乗り換えた。

 速やかに左折の工程を終えウィンカーの合図を消し、バイクを立て直すと、信じられない光景が俺の目に飛び込んできた。城東区炎上!

 「まさか・・・・・・」

 俺は、我が目を疑った。つい今朝方まで日常を送っていたはずの城東区の町が、燃えているのだ!既に炎は鶴見区付近まで駆け上り、城東区の南半分は焼け野原と化している。いったい何がどうしたというのだ!あまりの光景を目にし、俺は凍りついてしまった・・・・・・。

 「そうだ、消防車・・・・・・いや、お父さん!?」

 あまりの出来事に気が動転し、訳が判らなくなってしまったその時、全焼してしまった回転寿司屋の看板の隙間に、人影らしきものを見つけた。

 「人がいる!」

 俺は、人影らしきものの元へと駆け寄った。街灯も焼け落ちた真っ暗闇の中だったが、それが人であると言う事はすぐに判った。月明かりにさらすとそいつが男であると言うことも判った。顔中の年輪のような皺が、その男の生きてきた年月を物語っている。そして俺がその男を抱き起こそうとすると、真っ白な髭がかすかに動いた。

 「・・・・・・か・・・・・・神・・・・・・」

 絞り出すような声で、その男は言った。

 「神?神がどうした!?爺さん!」

 俺はその男を、『爺さん』と名づけた。

 「おお・・・・・・神よ・・・・・・何故このような事をなさる!おやめくだされ・・・・・・や、やめてくれええぃ!」

 「爺さん・・・・・・爺さん!」

 「炎が・・・・・・もえる・・・・・・燃える、何もかも!ああああああああ!!!」

 「爺さ〜〜〜〜ん!!!」

 男はそのまま、息を引き取った。俺は溢れる涙を必死にこらえ、いまだ燃え盛る炎を睨みつける。真っ赤な炎が城東区の空を赤く染める。と、その時、一匹の黒猫が俺の目の前に現れた。

 「お前は城東区民か」

 黒猫は言った。・・・・・・え、猫がしゃべった?俺は素直に驚いた。そしてさらに驚くほど素直にこう答えた。

 「今は鶴見区民です」

 「ならば去れ!ココはお前の様な者などが来るところではないっ!!!」

 「ご、ごめんなさい・・・・・・」

 その瞬間、黒猫はどこかへ消え去ってしまった。一体、何がなにやら・・・・・・。しかし、これだけは言える。このストーリーはフィクションです。フィクションですったら!!!

 PS.城東区にお住まいで、気を悪くなされた皆さん。ごめんなさい。こんな事、まずありえないんで。悪しからず・・・・・・。

(2001.12.11)





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